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2022 07/29
コラム
コロナ禍による建設投資への影響と今後の展望

2020/11/09

vol.05


 

コロナ禍による建設投資への影響と今後の展望

 


山本 高史
一般財団法人建設物価調査会
総合研究所 上席研究員
技術士(建設部門)

一般財団法人建設物価調査会は、建設資材の市場取引価格や建設工事費といった建設経済情報に特化した調査・研究機関であり、その結果を「月刊建設物価」という機関誌にとりまとめ、毎月発行しています。また、建物の建築工事費(再調達原価)の概算が素早く把握できる「JBCI」サービスを展開している団体としてご認識いただいている方も多いのではないでしょうか。

こうした仕事柄、様々な業団体の方とお話しする機会も多く、その際に聞かれるのが「これからの建設需要、建設工事費はどうなりますか?」という質問です。2019年は東京五輪の関連施設の他に、年間4,000万人想定の訪日外国人向けの宿泊施設が全国各地で建設され、旺盛な建設需要により建設工事費は高騰しました。2020年には五輪特需が終了し、高騰した建設工事費を嫌った企業が後ろ倒しにした建設投資が出て来るものと見込まれていました。

しかし、新型コロナウイルス感染症の拡大によって、世界中の社会経済活動は停滞し、国内の建設産業も甚大な影響を受けました。既に建設中の案件では、建設資材の納期遅延、打合せや会議の中止・延期、工期の延長が発生し、企画・計画段階の案件では、建設計画自体の白紙化も相当数発生したと聞いております。

こうしたなか、当会ではコロナ禍による建設計画への影響について、資本金一億円以上の国内企業に対し、3月より3カ月毎にアンケート調査を実施しております。3月1日時点では、国内での感染者が確認され始めた時期でもあり、建設投資計画に深刻な影響もなく、「計画は変わらない」と回答した企業は91.7%と大多数を占め、「後ろ倒し、または中止になった」と回答した企業は8.0%でした。しかし、緊急事態宣言が解除された直後の6月1日時点では、建設投資計画が「変わらない」は82.4%と減少し、「後ろ倒し・中止」は17.5%と増えました。

また、後ろ倒し・中止になった要因としては、「自社のキャッシュフロー確保のため」が21.6%、「先行きが不透明なため」が46.0%となり、感染拡大の第二波への不安感などが投資マインドに影響していたことが伺えます。
9月1日時点での回答では、「変わらない」は81.8%、「後ろ倒し・中止」は17.6%と6月1日時点とほぼ同じ傾向だったものの、後ろ倒し・中止になった要因については、「先行き不透明」が33.5%と減少し、「キャッシュフロー確保」が36.4%と増加しました。徐々に「新しい日常」が生活に浸透し、緩やかながらも経済活動が再開され始めたこともあり、先行きの不透明感が多少は払拭されたものの、万が一に備えてキャッシュフローを確保しておきたいという企業の意向が見受けられます。

また、国土交通省が国内の建設会社大手50社を対象に月別の受注高を調査している「建設工事受注動態調査報告」においても、2020年9月の建築工事の受注高は8,327億円と、前年同月比で18.5%の減少となっています。例年9月の受注高は1兆円を超えていることからも、今年の建築工事の需要減少がコロナ禍の影響を大きく受けているものであることが分かります。

未だコロナ禍の収束が見えない現状において、以前のような積極的な建設投資を進められる企業は限られます。しばらくの間、建設需要は低迷するものと見込まれ、建設工事費も下落傾向になるであろうという見方もあります。

しかし一方では、建設コストが増大する要因も山積しています。

現在、わが国の建設労働者数は少子高齢化により減少の一途を辿っています。人材確保のための賃金の見直しや手厚い福利厚生など、労働条件の改善にかかるコストは全て建設工事費に転嫁されています。建設現場においても、作業員詰所の換気設備や十分な広さの手洗い場、消毒液やマスクといった消耗品など、感染症拡大防止のためのコストも当然のように建設工事費に反映されます。

また、コロナ禍によって新たな社会的ニーズが生まれ、建築物に求められる設備や仕様は大きく変容しています。例えば、オフィスビルならば、非接触のエレベーターパネルやウイルス除去機能付きの空調設備など、感染症拡大防止に係る設備の費用も建設工事費に付加されることになります。

このような現状を踏まえて、冒頭の「これからの建設工事費はどうなりますか?」という質問については、「建設市場の冷え込みにより上がりもしませんが、建設コストの増大によって下がりもしないと思われます」と回答しております。

需給バランスによって形成される価格(プライス)と、実際の建設にかかる費用(コスト)とによって板挟みにされる建設会社にとっては、非常に厳しい状況が続くでしょう。Withコロナ時代は人も企業も我慢が求められる時代なのかも知れません。

当会では、これからも皆さまのお役に立つ経済情報を提供していきたいと考えております。調査・研究の成果は、当会のHPにて閲覧することができます。興味のある方は、ぜひ「建設物価調査会」でWeb検索してみてください。

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