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2022 07/29
コラム
不動産鑑定士の特許の話

2021/06/23

vol.13


 

不動産鑑定士の特許の話

 


村上 幸二郎
不動産カウンセラー、工学博士
不動産カウンセラー協会理事
四国不動産鑑定士協会連合会会長
村上不動産鑑定士事務所 代表取締役

 

1.まずは妄想・・
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A不動産鑑定士:
「Bさん、あなたのお持ちの土地は坪単価が14万円です。これが鑑定評価書です。どうぞ・・」
Bさん:
「そ、そんな・・安いんですか? 坪20万円は下らないと思ってました・・これでは担保割れです。
困ったなあ・・一体何がそんなに悪いんですか?」
A不動産鑑定士:
「もし前面道路に街路樹があれば坪16万円です。
そして更に、横に都市公園があれば坪20万円になります。
また前面道路をあと6m広げ各3m歩道を作って、
さらにすぐそこの一方通行もなくなれば坪23万円になるでしょう。
ついでにあなたのおウチと隣のビルを白色にしてもらえれば、坪25万円を超えるでしょう・・・」
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・・・最初、A鑑定士は坪14万円という「現実」をBさんに突き付けたわけですが、A鑑定士の最後の話は「将来」の話です。
本稿では、A鑑定士の「将来」の話を目指し、開発しました「現実の・・」特許の話をさせていただきます・・。

 

2.特許の概要
このたび「不動産評価システムおよび不動産評価方法」という特許を取得いたしました。

内容は、主に将来時点の不動産価格や賃料水準を推計する方法を示したものです。「買い希望価格(賃料)」と「売り希望価格(賃料)」という情報を知ることで総需要曲線と総供給曲線を描くことができるのです。そしてその交点から需給均衡価格にアプローチする方法に関する特許です。

図:希望賃料から導出された総需給曲線
 

3.希望価格(賃料)という概念
このシステムの初期入力情報である「買い希望価格」と「売り希望価格」*の入手方法は様々だと思いますが、アンケートなどの聞き取り調査によることが一般的だと思います。
・・こうなると「面倒だな・・・」と思われるかもしれませんが、このような希望価格データは地域的・時間的に汎用性があるため、蓄積されれば全国で使える宝の集計データとなることでしょう。
また売買に比べ、より現実性を持たせた「借り希望賃料」や「貸し希望賃料」という概念も特許の範疇として創設しました。

図:売り希望価格と買い希望価の実際のアンケートデータ
*注)希望価格(賃料)について
買い希望価格:物件を買う場合の最高提示価格(購入需要層に聴取)
売り希望価格:物件を売る場合の最低提示価格(所有者等に聴取)
借り希望賃料:物件を借りる場合の最高提示賃料(賃貸需要層に聴取)
貸し希望賃料:物件を貸す場合の最低提示賃料(所有者等に聴取)

 

4.将来価格の推計とは・・
この希望価格(希望賃料)は現在の不動産に対するものでなくても構わないのです。
例えば・・家の前の道が今より広い場合や、街路樹がある場合、公園が隣に設置された場合・・など、様々な想定条件の下で希望価格の回答を求めることも可能です〔公園が近接した場合、公園なしの場合より需給均衡値がアップ(価格上昇)するという試行結果が得られました〕。
実際には下記のような街の将来像を示したパースを被験者に見せて、回答してもらうことも有益だと考えます。

図:アンケートに使用予定のパース
上:徳島県庁前現況図/下:中心部将来図〔Perspective by Murakami〕

 

5.都市計画への鑑定士のかかわり
不動産価格はその街の「総合評価値」ともいえますので、事前にその都市計画の良否を不動産価格等の動きで計量的に把握できるということは、街の将来像を創る際の計画アセスメント(評価)として有用だと考えます。

 

6.ゼロからの試み
以上のようなことを書くと・・・
「現在ありもしない将来の状況を前提に聞き取り調査したデータでの推定結果などあてにならない・・」とか
「将来価格は鑑定評価基準では認められていない・・」、「こんなこと役に立つのか」とか・・・それはそれは様々な批判が浴びせられるでしょう。
私は「我々がこんなことを考えても何も生まれるはずがない」というネガティブな深層心理こそが、これからの時代の最大の敵と自身に言い聞かせております。異質の組み合わせから様々な発見や発明があり、現代人の生活はこれら先人のイノベーションの上に成り立っているのは事実です。そしてゼロからの創造物は何も専門研究者だけでなく一般人の努力によって生み出されたものも数多く存在しています。
・・・ということで「どのようにすれば都市の総合評価値を向上させることができるのか・・?」という課題に的確に応えることのできる専門職業家の一人になるべく、新たな可能性にチャレンジしている今日この頃です。

 

7.今後の話
・・とは言っても、なかなかビジネスにはなってくれないのが世の常です。当然、まだまだ改良に向けた努力が必要なのですが、現在この特許を利用したビジネスパートナーを探しております。もし誰かご理解・ご指導いただける方がおられましたら、お声掛けいただけると幸甚です。

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