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2022 07/29
コラム
不動産鑑定士のDX

2021/09/13

vol.15


 

不動産鑑定士のDX

 


浅尾 輝樹
不動産カウンセラー、不動産鑑定士
一般財団法人日本不動産研究所
総務部情報戦略室 次長

 

1.不動産鑑定士のDX
私、普通の不動産鑑定士なのですが、3年ほど前に不動産鑑定業のDX(デジタルトランスフォーメーション)やAIのことを考える部署に配属になりまして、本稿では、以降、現在までの七転八倒の記録をお聞きいただけたらと思います。
なお、勉強中の身ですので、文中、正確ではない言い回しや誤った理解があるかもしれませんが、あらかじめご容赦くださいませ。

 

2.GISの話
ビッグデータ社会と言われて久しいですが、もう、データが多すぎて、人が見て解釈できるレベルを超えていると感じます。
まだまだ不動産鑑定において、ビッグデータを扱う機会は少ないですが、AIの台頭もあり、いつかはビッグデータを扱う時代が来るんだろうな、と思っています。
人の許容範囲を超えているようなビッグデータを扱うためには、可視化・要約する技術が必要なんじゃないか、ということで、GIS、始めました。
ちなみに、GISは新しい技術でもありませんので、ご存知の方も多いと思いますが、地図情報システムです。最近、国のデータもGIS向けのものが増え、無料で手に入るようになってきましたし、GISのアプリケーションも無料化が進み、試しやすくなってきています。

※写真はクリックすると拡大します(以下同じ)。

出典:人口減少地域における土地利用の変化に対応した鑑定評価手法の検討業務(令和3年3月 国土交通省)報告書
https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/content/001403241.pdf

上図は、日本不動産鑑定士協会連合会の取組で自分も関わった業務ですが、岩手県内における過去10年間の取引事例の数を色で表示したものです。GISに落とし込むと、どういう地域に取引事例がないのか一目瞭然になりました。表による集計ですと、なかなかここまで分かりやすくはなりません。

出典:財産評価基本通達(国税庁)の路線価に基づき筆者が作成

上図は、香川県高松市の中心商店街の路線価を色と高さで表現して時系列でアニメーションのようにしたものです。街路ごとの趨勢を分析するのに役立ちました。
ちなみに、これらの分析は、アプリケーションもデータも無料でできています。

3.BIMの話
データ連携という言葉も時代のキーワードになっていますね。
不動産業界では、建築、登記、維持管理、売買、課税、融資、居住者情報などを連携させようということになりますが、海外ではMLSなどと呼ばれ情報の集約が始まっていますし、国内でも国土交通省による不動産IDの統合検討等、実現の機運が高まってきているように思います。
不動産鑑定も、できればこのデータの鎖の中に取り込まれたいものです。
データを連携させるとすれば、単位を合わせる必要があります。それは建物で言えば1棟単位なのか、でもマンションは住戸単位ではないのか、もっと細かく部屋単位にする必要はないのか、など。
いっそのこと、もっとも細かくデータを持てる様式でやってみようか、ということで、BIM、始めました。
BIMとは、Building Information Modellingの略で、平たく申し上げれば、建物の3Dデータのことです。設計、施工分野で普及が進んでおり、建物建築時だけでなく、建物のライフサイクル全般を管理する受け皿としての研究も進んでいるようです。


出典:日本不動産研究所にて作成

BIMは、上図のように建物の3Dモデルですが、従来のCADと異なるのは、建物の部位や空間に情報を持たせることができます。図ではサッシを指しています。
サッシに、種類や取得時期、取得価格などの情報を持っており、表示されています。このようなデータを鑑定士が作図していたら、完全に大赤字となりますが、さきほどのデータ連携が実現され、取得価格や修繕履歴の入ったBIMデータを依頼者から与えられたら、もしかしたら鑑定評価の作業の効率化と評価精度の向上を同時に実現できるかもしれません。
今のところ、鑑定評価手法のうち原価法(再調達原価や耐用年数の把握など)での適用方法を検討していますが、ゆくゆくは建物の将来予測へ研究を広げていきたいと考えています。
BIMが普及するかどうかは未知数なのですが、、、

 

4.機械学習の話
扱うデータが多くなるのに合わせて、自分(不動産鑑定士)も分析技術を磨く必要があるのではないか、と焦り始めます。
せっかくだったら、人VS機械の文脈で、最大の敵である?AIについて勉強してみようか、ということで、機械学習、始めました。
東京都内の地価公示価格を使って、機械による地価の査定を試みました。
といっても、自分ではなく、同僚が勉強してやってくれたのですが、、、


出典:日本不動産研究所にて作成

上図は、重回帰分析でやった場合と、機械学習でやった場合の誤差を比較しています。
細かな内容は割愛させていただきますが、結論を申し上げると、GLMが重回帰分析、Ensembleが機械学習ですが、誤差が20%未満になった地点の割合が50.5%から76.4%に改善しました。
と申しましても、20%は2割以上外しているのですが、、、


出典:日本不動産研究所にて作成

上図は、機械学習により求めた査定値と実際の公示価格との誤差を示しています。
白が当たった地点、赤が外れた地点です。郊外の住宅地は当たりやすいですが、やはり、都心は外しています。
モデルを分けたり、採用する価格形成要因データを増やしたりなど、精度を高くする余地はたぶんにあるのですが、あえて粗いモデルでやって、機械学習でどれだけできるのか、見てみようという趣旨でもありましたので、この辺までにしています。


出典:日本不動産研究所にて作成

AIはブラックボックスと言われます。実際、やってみると、ブラックスボックスとは限らなくて、ある程度、やっていることのプロセスは分かるのですが、サンプルや条件を変えて何十回も解析が行われ、それらを加重平均され、それを、違う手法でやった値とさらに加重平均され、結果出た値を最初に戻って解析して補正をしたり、と、複雑すぎて、理解も解釈もできなくなります。
そういう意味で、やはり、AIはブラックボックスということなのだな、と納得しました。
ただ、AIは説明しない、というのを逆手に取って、説明しにくい部分にAIを活用するという姿勢はアリかな、と思っています。
AIの学者の方の言では、言葉で説明しにくい部分にAIは向いているそうです。
牛と馬、見れば違いは分かりますが、違いを言葉で説明しにくいものです。
鑑定評価においても、地域の標準的使用や、土地価格、利回りなど、言葉での説明が難しい分野への応用ができないか、検討していきたいと思います(同僚が)。

 

5.最後に
以上のような取組(七転八倒)をお聞きいただきましたが、最近、DXに取り組めば組むほど、大事なのはITに関するスキルではなく不動産市場に関する経験や知見だなと思います。大手町(東京駅の西側)と八重洲(東京駅の東側)を比べて大手町の方が高いね、ということは機械が算出してくれるかもしれませんが、なぜ高いのかという解釈はしてくれません。
そういう意味で、本稿でご紹介したものは、あくまでもテクニックということで、自分たちの本質は、しっかりと不動産市場に精通することだということを忘れないように活動を進めたいと感じます。

以上、誤解や思い込みも多く、お恥ずかしい限りですが、お付き合いいただきありがとうございました。

 

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