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2023 08/07
コラム
相続税における居住用マンションの評価見直し(案)について

2023/8/7

vol.27


 

相続税における居住用マンションの評価見直し(案)について

 


戸張 有
不動産カウンセラー、不動産鑑定士
不動産カウンセラー協会常務理事、広報委員長
一般財団法人日本不動産研究所 公共部長

 

高騰を続けているマンション市場において、マンションの実勢価格と相続税評価額との間には大きな差があるということが言われています。特にタワーマンションの高層階を購入することで大幅な相続税の節税になるという、いわゆる「タワマン節税」としてタワーマンションの購入が注目されるようになっていました。
そうした中、銀行借入を行って購入した2棟のマンションを相続税額0円として相続した者が、そのうちの1棟のマンションを売却し利益を得たケースにおいて、財産評価基本通達第6項を適用し当該相続財産を鑑定評価額で評価し更正処分した件で争われた裁判が、令和4年4月の最高裁判決で国が勝訴したことも記憶に新しいことと思います。
これ以降、マンションの評価額の乖離に対する批判の高まりや、取引の手控えによる市場への影響を懸念する向きも見られ、課税の公平を図りつつ、納税者の予見可能性を確保する観点からも、早期にマンションの評価に関する通達を見直す必要が生じてきました。
このため、国税庁では、乖離の実態把握とその要因分析を的確に行った上で、不動産業界関係者などを含む有識者の意見も聴取しながら、通達改正を検討していくことになりました。

小職は、国税庁が設置した「マンションに係る財産評価基本通達に関する有識者会議」の委員を務めていたことから、本稿では、上記の経緯のもと7月21日にパブコメに付された【「居住用の区分所有財産の評価について」の法令解釈通達(案)】について概説することとします。

1.基本的な考え方
基本的には、現行の評価額(土地:路線価等から算出、建物:固定資産税評価額)を基礎としつつ、市場価格との乖離が大きい場合に、一定の算式で求められた補正率を現行の評価額に乗ずるという考え方となります。

2.評価乖離率
本案を理解するに当たって、最もキーとなるのは「評価乖離率」というワードになります。「評価乖離率」とは、多数の取引事例から統計的手法で算出された市場価格相当額と現行の評価額と乖離率を表しています。
この「評価乖離率」は、下記式のとおり、(1)築年が新しいほど乖離が大きい、(2)一棟全体が高層であるほど乖離が大きい、(3)住んでいる階が高いほど乖離が大きい、(4)専有面積に対する敷地利用権面積が小さいほど乖離が大きいことを意味しています。

総階数指数
評価乖離率 = 築年数×△0.033 + (総階数÷33)(1を超える場合は1)×0.239
敷地持分狭小度
+ 所在階×0.018 + (敷地利用権面積÷専有面積)×△1.195 + 3.22

 

3.基本式
本案における居住用マンションの評価額は、以下のとおりです。

 現行の相続税評価額(※1) × 補正率(※2)
    • (※1)土地=路線価等から算出、建物=固定資産税評価額
    • (※2)補正率
      • 【評価水準(「1÷評価乖離率」以下同じ)が1を超える場合】

          • =現行評価額が市場価格相当額を下回る場合
          • =評価乖離率が1未満

         補正率 = 評価乖離率
      • 【評価水準が0.6以上1未満の場合】

          • =評価乖離率が1以上1.67未満
         補正率 = 1
      • 【評価水準が0.6未満の場合】

          • =評価乖離率が1.67以上
         補正率 = 評価乖離率×0.6  

     

    この式の意味するところを簡潔に述べると以下のとおりとなります。
    (1)「評価乖離率」が1未満の場合は、現行評価額が市場価格相当額を割り込んでると判断し、現行の評価額は減額されます。
    (2)「評価乖離率」が1以上1.67未満の場合は、現行評価額のままとなります。
    (3)「評価乖離率」が1.67以上の場合は、評価乖離率を6掛けした補正率を乗じた評価額となります。すなわち、現行の評価額より増額す ることとなります。

    4.その他
    その他留意すべき点は、以下のとおりです。

    (1)令和6年1月1日以後の相続、遺贈又は贈与により取得した財産の評価に適用されます。
    (2)本案の対象は「居住用マンション」であり、区分所有されていない一棟の賃貸マンション、店舗など他用途の区分所有建物には適用されません。
    (3)また、総階数2階以下と居住用部分が3以下であって、全て親族所有の物件(いわゆる二世帯住宅等)には適用されません。
    (4)一方、一棟すべてが単独所有となっているマンションは、適用対象になるとともに、上記①の場合であっても現行評価額の減額措置はなく、補正率は1が下限となります。

     

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