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2022 07/29
コラム
「集積の経済」とリモートワーク

2020/12/09

vol.06


 

「集積の経済」とリモートワーク

 


澁井 和夫
不動産カウンセラー、不動産鑑定士
世田谷信用金庫

 

ミクロ経済学では、市場に多数の経済主体が参加することにより、市場の中で需給均衡点が求められ、取引される財の価格と数量が決定され、この市場機能によって地球上の稀少な経済資源が最適に配分されるという理論(完全競争市場理論)を土台にして、様々な経済事象を研究して成果を上げてきた。市場メカニズムの働かないところで経済主体に影響を及ぼす事象の発生を「外部性」と呼び、現実の市場が不完全であることも知られている。例えば、プラスチック袋が買い物に利用された結果、海洋汚染が生じた場合、この海洋汚染が「外部不経済」に該当する。海洋の浄化費用を市場の内部で負担させるためレジ袋利用者に課徴金をかけるとか、市場の外部で社会的費用として国民全体の税金で賄うなどの措置が必要となる。

一方、多数の経済主体が空間的に集合することから得られる「外部経済」を「集積の経済」と呼ぶ。社会的インフラの共用、知識・技術のスピルオーバー効果(費用を負担した者に提供される便宜が負担しない者にまで及ぶ効果)などが「集積の経済」を生み、この「集積の経済」は、大都市が形成される要因とされてきた。

ところが、現在直面している新型コロナウイルスのパンデミックは、「集積の不経済」を際立たせる事象となった。交通渋滞や大気汚染の発生など「集積の不経済」とされる事柄は従来から知られており、それゆえ都市が大きくなりすぎる「不経済」については認識されていたところであり、地震・洪水などの災害に対する都市内におけるバッファーゾーンの重要性も語られてきた。

しかし、今回の感染症の蔓延リスクはいわゆる「三密の回避」、「ソーシャル・ディスタンスの確保」など、新たな生活様式を要請する形で、都市機能の見直し、都市生活の変容について問題を提起した。そこでは、従来の「濃密でリアルな集中」の相対軸として、「点在のバーチャルな結合」が提案され、双方のメリット・デメリットが吟味されている。テレワーク、リモートワークは空間移動を省略し、電話とパソコンを使用したオンライン商談の道を進化させようとしている。「同一の空間に一緒にいなくても、殆どのことができる」実感と効率を味わってしまった今、リアル世界に対するWEBバーチャル世界の並立と融合は、一層進展していくであろう。リアル世界が消滅することは考えられないが、リアルなために非効率な様式はバーチャルに置き換えられていくものと予測される。「リアル面会ナシでも失礼にはならない」常識がすでに形成されつつある。

ところで、私たちはどのような『暮らし方』を未来の空間に描いていくのか。「風の谷のナウシカ」では、地表は腐ってしまい虫しか住めない世界と化している。しかし、風向きのおかげで、「風の谷」だけが腐ることを免れていた。パンデミック、砂漠化、温暖化、一様化、自然災害激甚化の中で、人類は「風の谷」を構築できるのか。

 

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