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2022 07/29
コラム
仕事の醍醐味

2021/01/04

vol.07


 

仕事の醍醐味

 


遠藤 幸子
理事、弁護士

そのころ、彼は30代半ばでした。祖父は始めた工務店を一代で大きな建設会社とし、地方の名士となりましたが、実は数十億の借金に苦しんでいました。祖父には子が3人いましたが、相続が開始すると非嫡出子が数人いることがわかり、激しい相続争いが10年続きました。長男が会社を引き継ぐと決まったころには、会社は銀行管理となり、時代もバブルがはじけて不況の風が吹き荒れており、長男はすぐに自分の長男に会社を譲ってしまいました。長男の長男である彼はアメリカで遊学?していたのですが、呼び戻され、ガタガタになった建設会社を引き継ぐことになったのです。

私が彼と出会ったのは、とうとう銀行がその建設会社の債権を売却することになった時でした。再生ファンドはデューデリのためその建設会社に乗り込み、そのメンバーの一員として資産状況、株主関係など調査しました。

結局その再生ファンドが債権を買い、再生方針を立てていきましたが、その建設会社のメンバーは、東京から来た再生ファンドをあからさまに敵とみており、緊張感で一杯でした。建設会社は多数の不動産を保有していたので、債権回収はまず、その担保処分からなのですが、簡単に売却できるような不動産が残っているわけもなく、測量から始めなければなりません。処分対象には所在のわからない山林や、岸壁までありました。さらに、巨額な税金滞納もあったので、その回避のために、会社分割や合併、売掛金の代理受領、競売申し立て、破産手続きなど様々な法的手続きを駆使し、適法に圧縮しました。

バトルを繰り返しながら、彼は、10年ほどかかって、再生ファンドを卒業し、自社を取り戻しました。銀行は、この建設会社の債権を売却する際、この会社を含むワースト3の債権を売却したそうですが、結局生き残ったのはこの建設会社だけだったそうです。再生ファンドとして、対象会社を改善して売り払うという方法はよくとられますが、本人の手に戻るという本当の再生ができ、とてもうれしく感じましした。

債務から卒業した後、彼は、再生ファンドへの弁済資金を捻出するために一旦売却していた土地を買い戻しました。また、賃貸していた商業店舗裏のがけ地を建設会社ならではのノウハウで整地し、駐車場を広くして、回収賃料を増やしました。そのようにして作った資金で本社の隣地を購入し、本社も移転して場所を空け、大きな土地に、建設協力金方式で商業ビルを建て、サブリースとしました。そのようにして、建設会社とは名ばかりの不動産管理会社となりました。そのような中、私は、彼から案件を受任しました。最初の受任事項は買収した本社隣地の明け渡しです。売主である運送会社は従業員との紛争を棚に上げてさっさと土地を売ってしまったため、従業員が居座ってしまったのです。現地に乗り込んでトラック運転手らと交渉し退去してもらいました。今は、再生ファンドが処分をあきらめため残った底地について、借地権の買取や立ち退き交渉で、将来は区画全体の整理まで行きたいと構想しています。先日まで利益相反の相手に信用してもらえることは、感無量です。

このたび、彼は、縁あって、近隣温泉地の古い旅館を購入することなり、伝手で、超有名な建築家にホテルの設計を依頼することになりました。5つ星の上をいくホテルになるそうで、できあがったら全国的に評判になると、生き生きと語ってくれました。

私は、先祖が掘った深い穴から這い上がり、立派に花咲いている彼が自慢です。そして、専門家の仕事には、自分では生きられないような他人の人生に寄り添っていけるという楽しみがあると思います。温泉は、まだ計画段階なので、出来栄えは気長に待つこととしたいと思います。

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