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2022 07/29
コラム
「噴煙が立ち上る街」

2021/10/04

vol.16


「噴煙が立ち上る街」


福迫 良輔
不動産カウンセラー
(株)三友システムアプレイザル
取締役専務執行役員 経営企画室長

 

9月19日大西洋のスペイン領カナリア諸島にある火山が50年ぶりに噴火して真っ赤な溶岩が流れ出し、道路や建物に押し寄せる様子がテレビのニュースで映し出されました。また、9月27日は60人近くもの登山客らが亡くなった御嶽山の噴火から丸7年が経過した日でした。火山噴火で放出されるエネルギー量は凄まじく、実際に噴火を目の当たりにすると誰もが恐怖を覚えます。ところが、日本には火山を間近(小学生が遠泳で到達できるほどの距離)に仰ぎながら、多くの人々が生活を営んでいる県庁所在地があります。

私の故郷である鹿児島市を特徴づけているのが桜島の存在です。直近1年間の噴火回数は107回で、平均すると1週間に2回噴火していることになります。それでも、この1年はその前の3年間に比べると半分程度に沈静化していますので、以前は1日おきに噴火していたことになります。このように、ニュースにもならないほどに日常的に噴火している活火山と市民約60万人が隣り合って生活している都市は世界的にも珍しいのではないでしょうか。市内には温泉の源泉が約270カ所あり、源泉から温泉をひいた銭湯が約50カ所もあります。その6割は午前6時までに営業を開始し、早朝から多くの市民が420円(大人)で温泉を楽しんでいます。市内人口の約17%を占める70歳以上の高齢者約10万人は優待料金100円で銭湯を利用でき、銭湯は近隣の高齢者の方々の憩いと交流の場となっています。

鹿児島市の温泉は、地下から噴き出してくる高温の蒸気に雨水が加わってできた指宿(薩摩半島南端)の温泉や火山の熱で温められた地下水が湧出した霧島周辺(鹿児島・宮崎にまたがる)の温泉と異なり、鹿児島湾(カルデラ)ができたときの断層や割れ目に沿って熱水が上昇し、これに地下水が加わってできた温泉だそうです。つまり、県内全域が活発なマグマ活動を覆う地盤の上に存在し、その中央に位置する鹿児島市は、衰えることなく噴煙を吐き続ける桜島と向き合っていることになります。防災科学技術研究所によりますと、市域における微地形区分図の凡例区分で火山地形に相当する「火山地」「火山山麓地」「火山性丘陸」の総メッシュ数を集計し、市総面積に占める割合を算出して5段階で表示した火山の危険性は最高段階(62.8%)となっています。

桜島は過去に4回の大噴火(1476年、1779年、1914年、1955年)が発生していますが、その後、1960年、1983年、1987年に年間400回以上の爆発が観測され、2006年には昭和火口が58年ぶりに噴火するなど、活動は徐々に活発化しています。先ほど記しましたとおり、近年も年間の噴火回数が高水準となり、いつ大爆発が発生してもおかしくない状況であると言われています。大爆発が発生すれば、桜島の島全域に噴石が到達し、他にも火砕流、溶岩流、土石流の発生、鹿児島市全域では震度6程度の強い地震や厚さ1メートル以上の降灰の可能性が予測されています。降灰は厚さ50センチ程積もれば、その重量で木造家屋を倒壊させる恐れがあり、これが現実となれば津波にも劣らぬ甚大な被害をもたらすことになります。

人々を癒し、憩いを与える温泉や観光資源としての雄大な景観など恩恵を受ける一方で、大きな災害リスクを抱えた桜島と共存するこの土地から西郷隆盛、大久保利通、五代友厚らの明治維新の立役者が多数輩出されました。火山に特徴づけられた自然特性が、マグマのように熱い志を持った人材の育成にも少なからず影響を与えたのかもしれません。故郷を遠く離れて40年、そう自分言い聞かせながら、まぶたの裏に焼き付いた桜島の噴煙を仰ぎ見ています。

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